得意とするもの
パーキンソン病と鍼灸に関する研究
神経難病、特にパーキンソンやALSがありますが、鍼灸は有効であるという証明をするための研究に千葉鍼灸学会として長く携わってきています。
この写真は研究でお世話になっている鎌ヶ谷総合病院にて神経内科・神経難病医療センター長の湯浅龍彦先生と写したものです。神経内科・神経難病医療センターまた私たちのグループは、鍼灸師や患者さん向けにパーキンソン病のセミナーを開催しています。
パーキンソン病セミナーにおける湯浅先生による「鍼灸への期待」講演
パーキンソン病治療のほとんどは薬物(L-dopaとドパミンアゴニストの内服)になりますが、薬の効き方に個人差があり、長期にわたる投薬で運動合併症(ウェアリングオフやジスキネジア)が発生したりと問題も多いのです。そこで鍼灸を併用することで薬の効果を発揮しやすく、投薬量が増えるのを抑えることができたり、身体機能を回復し生活の質(QOL)を高めることができるので、これを科学的根拠に基いて証明し、パーキンソン病に対する鍼灸施術の普及を図りたいと考えました。当時私は千葉鍼灸学会会長をしておりましたので、その活動の一環としてはじめました。
湯浅先生がPDにおける鍼灸研究に至った経緯を投稿をしてくださっています。
国立精神・神経センター国府台病院神経内科「医療」編集委員長 湯浅龍彦 「転機:東洋医学再考」
現在は運営母体が「日本鍼灸神経科学会(The Japan Acupuncture and Neuroscience Society)」になっておりますが、医道の日本誌からも取材がありました。
<<「パーキンソン病鍼灸フォーラム」第1回セミナー開催 [2015.11.09]>>
ちなみに、ここに至ったのは千葉大学のフロンティアメディカル工学研究開発センターの下山一郎教授のご協力をいただいて始まった「鍼灸刺激が脳に与える影響」の研究からでした。
パーキンソン病とは?
原因について
パーキンソン病は、脳の「黒質」から出る神経伝達物質であるドーパミンを放出する神経細胞が減少することで発症します。特徴的な症状としては、手足の震えやこわばり、関節がスムーズに動かないなどと歩行障害が起こります。
黒質の神経細胞が壊れてきてドーパミンの量が減って、身体を動かすために必要な情報を出す司令部的な線条体への働きが十分でなくなると、動かす力と抑える力とのバランスが崩れ、動作がおかしくなるのです。
パーキンソン病の症状
- 手足のふるえ(安静時振戦)
- 筋肉のこわばり(筋強剛[固縮])
- 動作が緩慢(無動またはゆっくりの動作・字が小さくなる・仮面様願望・声が小さく)
- 姿勢反射障害(前かがみになり転びやすい)
上記のような四大症状を特徴としています。
その他の症状
- 便秘
- 頻尿
- 立ちくらみ
- 不安
- 認知症
- 睡眠障害
- よだれ
- 冷えやむくみ
- 不眠
上記のような様々な症状が出現したりします。これらの特徴を踏まえ、いくつかの簡単な検査によって診断が確定されます。
パーキンソン病の鍼灸
基本的にはどのような手技の鍼灸施術でもパーキンソン病には効果があると私どもの研究でわかりましたが、鍼灸院では患者様個々の体質を判断した上で適切な方法を導き出します。鍼灸施術によって特に効果が認められる症状をあげます。
筋固縮(筋強剛)が弱まって楽になる
この症状が表れやすい部位としては首、肩、腕、腰、股関節、足などですが、症状が進むと身体がよじれるほどで真っ直ぐに歩けなくなる場合もあります。そんな状態でも施術を行うと、直後にあっさりスタスタと歩けるようになったりするので驚かれます。
薬の量を減らせるか現状維持が可能になる
パーキンソン病は鍼灸施術を併用することでL-ドーパやドーパミンアゴニストなどの薬の量を減らすか、病気の進行を遅らせることにより薬の量を増やさずに押さえ込むことができます。これはいくつかの研究報告がありますが、ドーパミン神経細胞の働きを助けるているという可能性も考えられています。
鍼灸施術による[2分間3m歩行の]改善
鎌ヶ谷総合で行った鍼灸施術前後での歩行改善に関する研究です。
3m間隔を2分間歩行していただいて、鍼の前後でどうのように変化するかの比較検討を撮影しています。
ほぼ全ての患者様(被験者)で、このように改善がみられました。
当院では「パーキンソン病症状記録ノート」に開始時からの記録をお願いし、経過を観察しましたら
- 手足が震える
- 体(筋肉)のこわばる
- 引きつる
- 動作の遅い
- 細かい作業がうまくできない
- 体のバランスがとりにくい
- 倒れやすい
- 歩行困難
- すくみ足
- イスから立ち上がりにくい
- 体に痛みがある
- 気分が落ち込む
- 不安になる
- 寝つきが悪い
- 朝早く目が覚める
- 夜中に目覚めた時動きにくい
- 夜中に目覚めた時トイレに動けない
- 起床時に動きにくい
- 起床時に動けない
等々の症状や便秘、夜間頻尿、鬱症状、歩行などにおいても改善がみられました。
また、ジスキネジア(自分の意志とは関係なく体が勝手に動いてしまう)を抑制し薬の量を維持または減らすことに成功しています。
学術文献
鍼灸関連の各種データベースでパーキンソン病というキーワードで検索すると出てくるものを以下に
- 鍼灸文献データベース(JACLiD)
- 全日本鍼灸学会雑誌(J-STAGE)
- 医療・生物学系電子図書館(ELBIS)
※これらのデータベース構築には当初情報化を推進する部署にいた私が関与しておりました。このように誰でも文献を検索できることは実に嬉しい。
スマホで姿勢や歩行を計測
従来私達が使用していた施術前後での歩行テストは、ビデオ撮影と3mの距離を2分間で何往復できるかとか、3mの距離を椅子から立ち上がってターンして再び椅子に座るという動作を何秒でできるかというようなものでした。
これは、いくつかの問題点があります。そこで、視覚以外で評価でき、しかも先生や場を意識しないで計測可能な方法を模索していました。できれば、患者さん自身が自宅で毎日計測し日誌をつけセルフチェックができるツールがあればいいのに。そんな発想で探していたら鍼灸指圧師である織田光晴氏が開発したこのようなアプリに出会い、パーキンソン病における施術前後の評価ツール開発が始まったわけです。
ボディーバランスチェッカー http://bodybalancechecker.com/
これを使うと、写真にあるように立位・片足・歩行のそれぞれの動作に関して前後左右上下の3Dで加速度(それぞれの方向への傾きや振れ)を計測できます。現在PCとWi-Fiで連動してリアルタイムでグラフ化したりデータを蓄積したりするソフトの開発を行っています。このデータを元に研究報告を計画しています。発表する際は、CSV形式でエクスポートしてエクセルや統計解析用のソフトで行います。近い将来実現を夢見ているのは「多施設での共同研究」です。
ご紹介します。これを使うと患者様ご自身で日々病気の状態を正確に把握できるようになります。「ボディーバランスチェッカー Lite(無料版)」をお試しいただければと思います。是非お試しいただき、感想をお聞かせください。
同業者(鍼灸師)の皆さんへ
私達はパーキンソン病(PD)に大変効果のある鍼灸を広めたいと考え、日本鍼灸神経科学会(The Japan Acupuncture and Neuroscience Society)を設立して毎年セミナーや研究会を開催しています。またパーキンソン病認定鍼灸師の制度も設置しPDの鍼灸施術に関する正しい知識と認識の普及に努めております。PDに関しては常に知識のアップツウデートが必要です。一緒に勉強しましょう!