得意とするもの
顔面神経麻痺
顔面が麻痺する原因は
これは様々です。代表的なものに帯状疱疹ウイルスが顔面神経管の中の顔面神経に感染して生じる「ラムゼイ・ハント症候群」があります。ヘルペスウイルスによって発症する「ベル麻痺」もあります。ケガなどに起因しておこる「外傷性」のものも「脳卒中」や「腫瘍」を析出する際に神経を傷つけて起こる場合もありますし、生まれつき麻痺している場合もあります。
顔面麻痺の対処法と治る可能性
原因が様々なので対処法も異なりますが、代表的な「ベル麻痺」や「ハント症候群」でのファーストチョイスは、ステロイド注射とウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤によるものです。自然治癒で6割治ると言われていますが6か月を過ぎると顔面の表情筋が痩せてきて回復の確立がかなり下がります。筋肉のこわばりや拘縮に対して手術やボツリヌス菌を使った方法などが試みられますが、なかなか思うように回復してくれません。
顔面神経への鍼灸
麻痺を発症したら病院での抗ウイルス薬などの治療と合わせて、すぐに鍼灸を開始した方が回復が早く後遺症の出る確率が低くなります。
最近の治療例でいえば、2か月前にハント症候群で下顎に麻痺が起こった千葉県富里市の方がいますが、最初は歯間ブラシを通しても感覚が全くなく口も歪んだ状態でしたが、毎回施術するたびにスッキリする感覚が生じ、17日間(6回)の鍼通電と超音波で歯周囲の感覚が戻ってきました。
発症から1年経過し、顔面神経麻痺の後遺症としての病的共同運動やこわばりにボツリヌス菌(食中毒の原因菌)のタンパク質(ボツリヌストキシン)を成分とする薬を筋肉内に注射する「ボツリヌス療法」を行った千葉県香取市から来られた患者さんの場合は、初見時は車の運転で瞼が落ちてきてしまい支障が出てきていたものが24回の鍼で車の運転には支障が出ない程度に回復してきました。見た目も改善し左右差もなくなりました。しかしながら、まだ瞼の違和感は残っており完治まではもう少しかかりそうです。
東京・横浜・神奈川や海外など遠方より来られる方が多いので施術期間の制約も多く十分なケアができない場合が多いのですが、それでも約8割の確率で治癒または、何らかの結果を出せております。
鍼治療を行う場所は主に顔面部で、表情筋に行っている神経の走行に沿って行いますが、ここ(顔面)には多くの経穴が存在します。
当院では表情筋(口輪筋・眼輪筋・大小頬骨筋)や神経の分岐点の耳の下などを中心に経穴や経絡からのアプローチも併用して施術を行います。
施術方法は基本的に<<美顔鍼>>と同じで表情筋の浅い部分に鍼を刺し、あまり動かない(筋収縮しない)程度の微弱な通電を行い麻痺の改善を図ります。また顔面神経全体が動くような部位に強刺激を加えると病的共同運動を誘発する可能性があるので避けています。
なお顔面神経麻痺の臨床的評価方法はスコア法(表情運動の視覚的点数化)が広く用いられHouse-Brackmann法や40点法(柳原法)があります。しかしながら評価に主観が入りやすいので、可能であれば反応を客観化できるElectroneurography(ENoG)検査法を用い病院で定期的に経過を見ていただくことをお勧めしています。しかし、違和感やこわばりなどは麻痺を起こしている本人しか分からないことも多いのでQOL評価も同時にみていくべきかと思っています。
過去の学術研究で顔面神経麻痺に行った低周波治療が病的共同運動を誘発する可能性が高いという報告がありました。これは筋紡錘がないためトーヌスを調整できず拘縮が強く出るということで、初期の段階で過度な筋収縮を起こすような刺激は避けなくてはいけません。しかし鍼による軽微な低周波通電は別ですし、初期と慢性期と施術法を変えながら行えば有効であると今までの臨床経験から確信しています。また鍼灸学会の文献を検索すると科学的根拠に基づく有効例がたくさん登録されています。
国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォーム『J-STAGE』より顔面神経麻痺に対する鍼灸治療
日本顔面神経学会の「顔面神経麻痺診療ガイドライン」で2011年版ではエビデンスが無く推奨しないとされていた鍼灸ですが、質の高い研究や症例が多く出てきたことにより症例が2023年版には鍼灸治療は評価されるようになりました。知識のアップツーデート(up-to-date)が行われていないためか古い情報が記されたWebページも多く未だに鍼灸が否定されているケースも多く見受けられ残念です。
病的共同運動は神経(ニューロン)が違う領域に誤接続してしまうために支配領域が違う表情筋に迷入して発症すると言われています。むき出しになった電気コードが別のむき出しになったコードに接触して間違った配線になってしまうみたいなものです。
また耳の下から分岐した顔面神経が大きく3つ(目・頬・口)に支配を広げるうちのどの表情筋の麻痺の程度が強いかによって正しい位置が保てなく(踏ん張りがきかない)て引きずられるように他の筋肉が動いてしまう場合などもあり、このような症状には鍼灸と合わせて表情筋(特に大小頬骨筋)のストレッチやマッサージなども有効です。「ミラーバイオフィードバック療法」というリハビリテーションもあり、これは鏡を見ながら表情筋を自分で動かし口を閉じても目を開いたままの状態を維持するように(特に上眼瞼挙筋)筋肉を意識して使う運動療法です。段階的に覚えていただくようにしています。
ベル麻痺やハント症候群の発生原因は様々ですが、顔面神経管(骨製トンネル)の中で浮腫が起こり神経の絞扼(圧迫)と虚血が生じて神経が損傷されるので早い段階では抗ウイルス薬やステロイドの大量投与が必要になってきます。自然治癒で60~70%は回復しますが、不完全な状態で完治とならないことも多く鍼灸は病的共同運動の予防やシワやたるみを解消し筋肉のこわばり、拘縮を緩めるなどの効果も期待できます。
院長コラムから