得意とするもの
線維筋痛症など酷い痛み
痛みというのは耐え難いものです。それが、毎日続くとなるとQOL(生活の質)を著しく低下させます。
そもそも「痛み」というのは何なんでしょう?
痛みを起こさせる物質はセロトニン、ヒスタミン、ブラジキニン、プロスタグランジン、アセチルコリンなどの発痛物質ですが、この中でも特にブラジキニン(bradykinin)が強く働きます。通常組織が損傷したりすることで発痛物質が血漿から遊離し知覚神経を興奮させ痛みを誘発します。
そして血管を拡張したり筋肉を固くし、発熱や炎症、浮腫や腫れなどを同時に引き起こします。
また心因性の疼痛(痛み)「中枢神経障害性疼痛」というのもあります。
原因は何であれ一旦「痛み」が出現すると、それに伴って自律神経の交感神経が興奮状態になり血管の収縮や筋緊張が起こります。
筋肉の緊張が慢性化してくると血行障害が起き、冷えや神経を痛めることもあり神経の異常興奮状態に陥り「神経障害性疼痛」のような症状を訴えられる方も多くいらっしゃいます。
線維筋痛症(FM:fibromyalgia)はその最たるもので、FMは慢性の広範囲な骨格筋系の疼痛、こわばり、異常感覚、睡眠障害、および多発性の圧痛点を伴った易疲労感を有する疾患です。 骨や関節に変形はみられず、特に女性で30~50歳代の方に多く発症します。原因は不明です。
米国リウマチ学会(ACR)の診断基準では
1.「広範囲の疼痛」の既往がある
定義:疼痛は以下のすべてが存在するときに「広範囲の疼痛」とされる。身体左側の疼痛、身体右側の疼痛、腰から上の疼痛、腰から下の疼痛、さらに躰幹中心部痛(頚椎、前胸部、胸椎、腰椎のいずれかの痛み)が存在する。
※なお「広範囲な疼痛」は、少なくとも3ヵ月持続、ないし再発する必要がある。
2.触診で 18 ヵ所の圧痛点のうち 11 ヵ所以上に圧痛を認める
定義:圧痛点は両側に対称性に存在し、合計 18 ヵ所となる。触診は約4kg/cm2の強さで行う。患者の触診に際し「痛くない」、「少し痛い」、「中くらいに痛い」および「とても痛い」に分けて問い、「少し痛い」以上であれば圧痛点ありとする。
患者が上記1、2の両方の基準を満たすとき、線維筋痛症と診断できる。となっています。左の図はその圧痛点の位置を示しています。
上記線維筋痛症の診断シートは当院で使用しているものです。線維筋痛症は最近では「痛覚変調性疼痛痛(nociplastica pain)」に分類されるようになりました。つまり末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実質的または切迫した組織障害の明確な証拠がないにもかかわらず、あるいは痛みを引き起こす体性感覚系に疾患や病変の証拠がないにもかかわらず侵害受容が変化することによって生じる痛みと定義されています。
また同様に耐え難い痛みや筋肉疲労、全身倦怠感などを伴う疾患に慢性疲労症候群(ME/CFS)というのがありますが、実は心と体を一緒のものとして捉える「心身一如(しんしんいちにょ)」考え方をベースとしている鍼灸はこれらの疾患にとても効果的です。
何故「鍼灸や漢方」が効くのか?
について、これから東西医学両面の見地から説明させていただきます。
1.神経血流が改善
酷い痛みやしびれを伴う知覚異常が出現する糖尿病性神経障害に対してラットの坐骨神経に鍼通電刺激を加えレーザー血流計で計測した実験がありますが、それによると神経障害に起因する痛み・しびれの軽減や振動覚閾値の改善が認められました。さらに振動覚閾値を指標に対照群(糖尿病性神経障害の無刺激群)と鍼通電刺激群とを比較したところ鍼通電刺激で振動覚閾値の改善が認められました。
しばしば経験することですが治療後に下肢皮膚温が上昇する現象もあって末梢循環が良くなり神経血流の改善が症状緩和につながるのではと考えられます。
2.脳血流量の増加
慢性片頭痛患者の脳血流に及ぼす影響についての研究によると鍼治療群と無治療群で比較した結果、片頭痛発作回数は鍼治療群で無治療群と比較し有意に減少するとともに、5-HT、VEGFとCGRPの血清レベルが治療前よりも低下しました。さらにArterial Spin-Labeling(ASL)MRIを用いて脳血流量の変化を鍼治療前後で比較検討した結果、慢性片頭痛患者群は初回の鍼刺激ではほとんど反応せず4週間の鍼治療継続後に再度脳血流を測定すると、疼痛調節系に脳血流増加反応が認められました。ある程度の期間鍼灸治療を継続すれば症状の改善が期待できるということですね。
3.脳内モルヒネを分泌
いわゆるランナーズハイのような競技に集中すると痛みを忘れるみたいな現象がありますが、その際に働くのが「脳内麻薬または脳内モルヒネ」と呼ばれるものです。これは肉体的苦痛に際して脳内で生成されるモルヒネ様物質(内因性オピオイドペプチド)の一つであるβ-エンドルフィンがドーパミンの放出を抑制しなくなることに起因しています。なお鎮痛効果はモルヒネの6.5倍と言われております。
プラジキニンなどの「発痛物質」に対して痛みを和らげる「鎮痛物質」というものがあります。エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン、セロトニンなどですが、鍼治療は脳下垂体や副腎皮質などに伝達され、このエンドルフィンなどの鎮痛物質を分泌させて痛みを緩和させます。
4.気滞・血滞をとって気血の流れを良くする
東洋医学では気血の流れが阻害されると痛むとされています。
よく使われる漢方薬は芍薬甘草湯(特にこむら返り等の筋痙攣)、抑肝散(抗アロディニア作用があり神経障害性疼痛等)など。
また、冷えを改善し血行を良くする意味で当帰芍薬散(婦人病)、八味地黄丸(老化防止)さらに気の流れ (気鬱・気逆・気虚)や水の流れ(水毒)を改善するために半夏厚朴湯や四逆散などが用いられることが多いです。